PROJECT 05出力33,000kWの国内最大のバイオマス専焼発電、
従業員数わずか15名のこの発電所に要注目だ。
国会議員が大勢でお越しになる。地元の市長さんも見えられた。
もちろん、電力業界の方や一般企業の方も多い。
見学希望者が後を絶たないのである。
川崎バイオマス発電所は、建築廃材等のバイオマス燃料を利用した
出力33,000kWの国内最大のバイオマス専焼発電所。
川崎バイオマス発電
技術部塩崎 直樹
現在テーマとしているのは「コストを意識した仕事運び」。業務はたくさんありますが、何を・どこまで・いつまでにするかを自分で考え、手間をかけた分メリットが出るなら手間を惜しまず、メリットが見込めないなら手間を省いて要点のみの仕事をするように心がけています。フランクな社風がそれを可能にしてくれていますね。
川崎バイオマス発電
発電部渡部 考平
エネルギーの明日に向かって発進、
国内初の都市型バイオマス発電所。
その日渡部考平(2004年入社)は3交替勤務の1勤(8:00~16:00勤務)で、中央制御室の椅子に座ってディスプレイを眺めていた。運転開始から1カ月目、機器類の微調整も済んで、運転状況はきわめて順調。あと1時間もすれば勤務も終わる。さて、今日は何をしようかと考えていた矢先だ。突然建物全体が激しい揺れに襲われる。運転、監視、制御用のあらゆるディスプレイの警告ランプが赤く点滅を開始する。アラームは鳴りっぱなし。渡部は椅子に座ったまま前後左右に引っ張られながら、必死になってキーボードを叩き、運転継続のための操作を続ける。気分的には10分程度だ。もっと短かったかもしれないが、なんとか治まった。安堵して後ろを見やると、みんな机の下で頭を押さえていた。2011年3月11日14時46分。三陸沖を震源として発生した東北地方太平洋沖大地震である。渡部が勤務する川崎バイオマス発電所も震度5強の揺れに襲われた。「セーフティロックがかかるギリギリの線でしたのでしょうね。なんとか運転を継続しようと、それだけで、本当に必死でした」3.11を境に、日本人はエネルギーのこと、発電のことを考え直しはじめた。100%CO2フリーの、誕生したばかりの川崎バイオマス発電が注目される契機ともなったのである。
自然のしくみにそったバイオマス発電。
ところで、火力発電である川崎バイオマス発電が、どうしてCO2フリーの発電システムなのか。「CO2フリー電気」とは、CO2を排出せずに発電された電気のことで、代表的なものとして再生可能エネルギーを利用した発電(太陽光・風力・水力発電など)があげられる。木質燃料を燃焼させ、二酸化炭素を排出するバイオマス発電の電気が「CO2フリー電気」といえるのは、「カーボンニュートラル」という概念による。川崎バイオマス発電で利用するバイオマス燃料は、周辺地域で発生する建設廃材からつくられた木質系チップ、樹木の間伐材、剪定枝、食品廃棄物等を利用したもの。中心となる樹木は、成長の過程において光合成により大気中の二酸化炭素(CO2)から炭素原子(C)を取り込み有機化合物を生産することで、幹、枝といったからだ部分をつくる。バイオマス燃料は発電所で燃焼することによりCO2が排出されるが、このCO2は大気中にあった二酸化炭素から樹木が取り込んだ炭素が燃焼により排出されるもので、大気中のCO2濃度には影響を与えない。これが「CO2フリー電気」のゆえんなのである。
注目のバイオマス発電所を
たった15人で動かしている自負。
塩崎直樹(2005年入社)がポリ袋に入った燃料用のチップを手にして、「これでどれぐらいの電気がつくれると思いますか」と問題を出す。キョトンとしていると、事務所のテレビを指差しながら「これで大体テレビ1台を半日ぐらい動かせるんですよ」と答を教えてくれた。チップ1kgで1.2kWhの電気。思った以上に「バイオマス」のパワーは強力らしい。塩崎のここでのメインの仕事は、発電所の保全計画および必要予算の作成と執行。発電所のメンテナンス計画をたて、必要なお金をはじき予算化し、工事を手配する。日常的な点検と修理にも対応する。こちらは、現場からあがってきた問題点を確認し、対策を考えて工事を手配する。もう一つ大切な仕事がある。燃料の調達だ。バイオマス発電の成否の鍵の一つは、必要な燃料を定期的に、とぎれることなく集荷できるかである。11年から12年にかけては発電に必要な燃料は確保できた。ただ、人口減少に伴い住宅の着工件数が減少していく中で、それを今後も期待するわけにはいかない。「現在の主たる燃料は建築廃材由来のチップですが、中長期的な燃料の集荷性を見れば、少子化進行ならびに人口減少に伴い、国内の住宅の解体・新築件数は減少することが予想され、建築廃材チップに代わる燃料の確保を進める必要がある。今考えているのは食品系残渣の利用拡大。人が口に入れるものを作る過程で残ったものなので環境に悪いものは基本的になく、また量も期待できる。少しずつ使用割合を増やして、建築廃材に置き換え確保していかなければならない。」塩崎に川崎バイオマス発電所のイチオシポイントを聞いてみた。「まずは発電規模でしょうね。バイオマス専焼で33,000kWは、国内最大。それを環境規制の厳しい都市部で実現できたのですから。これはちょっとすごいと思います。もう一つは、それだけの規模の発電所をたった15人の少人数で動かしていること。これは自慢できますね」
発電新時代をリードする最先端発電所でありたい。
自治体関係者や製造業を中心とする民間企業の見学希望がひっきりなしの状態であることは前述した。自治体も民間企業も、昨今の電力事情を考えれば、自前の発電設備の確保を考えざるをえない。それだけ、川崎バイオマス発電に「未来の電気づくり」の可能性を感じているのだろう。 川崎バイオマス発電所でつくられる電気は、PPS(Power Producer & Supplier)を通じて一般企業へ、東京電力を通じて一般家庭にも流通する。その量は一般家庭約38,000世帯が1年間に使用する電力量に相当する。CO2フリーの電力供給による地球温暖化防止と、川崎市の厳格な環境規制を高いレベルでクリアした都市型バイオマス発電所は、やっぱり少し時代の先端を行っているのである。ただ、前出の二人に10年後の会社の予想図を聞くと、意外と地味な答が返ってくる。「低価格な電気を安定的に供給していると思います。また、バイオマス発電を含む新たな発電所を運開し、発電を通じて地球温暖化防止に貢献しています」(渡部)
「地道にコツコツと利益を出している会社でしょう。電気を供給するという社会性の高い事業ですから、急激に大発展するとは考えがたい反面、企業努力を続ければ収益を出し続ける会社だと思いますね」(塩崎)
電気事業は現在、①安定供給、②低価格、③温暖化防止体策の要素をうまくバランスすることが要求されています。当社の強味は、90年を超える歴史の中で培ってきた発電技術・ノウハウがあり、これらの問題を解決できる力を持っていること。他の電力会社にはない、自由闊達に社内外に対して発言できる自由さも魅力です。